福岡高等裁判所 昭和63年(う)412号 判決
所論は,「被告人と共犯者千綿学が被害者A子を強姦しようと共謀し,第一現場で,被告人,千綿の順に同女を強いて姦淫しようとしてともに未遂に終わった行為と,その後千綿において,第二現場で同女を強いて姦淫した行為とを1個の犯罪と認定し,被告人に対しても強姦既遂の共犯としての責任を問うているが,千綿は第一現場を出発するときには同女に家まで送らせるつもりになっており,途中自動販売機で飲み物を買うなど,いったんは強姦の犯意を喪失していたものであって,第二現場での強姦は新たな犯意に基づいて犯されたものであり,また第一現場での同女に対する反抗抑圧の状態が,千綿が姦淫しようとしている間に被告人が立ち去り,千綿と同女とで同所を出発し第二現場に至るまで,同一のまま続いていたものでもないから,被告人と千綿とによる第一現場での強姦未遂と千綿ひとりによる第二現場での強姦既遂とは別個の犯罪であり,後者は被告人との共謀に基づく行為とはいえないのに,これにまで被告人の罪責を認めた原判決には,判決に影響を及ぼすことの明らかな事実誤認あるいは法令適用の誤りがある」というのであるが,第一現場で千綿が被告人に次いで同女を強いて姦淫しようとしている間に,被告人が犯行の行われている駐車中の軽四輪貨物自動車の付近を立ち去ったこと,その後千綿が「須恵まで送ってくれ。」と言って,千綿と同女とで同所を出発し,途中自動販売機で飲み物を買うなどして第二現場に至り,千綿において同女を強いて姦淫したことは認められるけれども,本件は被告人において同女を強姦しようと決意して暴行を加えるや,これを見た千綿も被告人と意思を相い通じて共謀のうえ,千綿においても同女に脅迫を加え,その反抗を抑圧したうえ,千綿の運転する軽四輪貨物自動車で第一現場まで連行し,合計約5時間にもわたって同所に駐車中の同車内において犯されものであること,第二現場における強姦は,千綿が同女を乗せた同車を自ら運転して第一現場を出発し,約20分後に同所から約7.5キロメートル離れた第二現場に至り,同所に駐車中の同車内において犯されたものであり,この間千綿から同女に対して新たに暴行,脅迫が加えられたようなことはなかったが,同女はなお反抗することができない状態にあったこともまた認められるのであって,これらの事実を併せ考えると,千綿において,第一現場での姦淫が陰茎不勃起という事情でその場は未遂に終わったものの,なお同女に対する強姦の犯意を全く喪失していたわけではなく,また被告人や千綿によって加えられた暴行,脅迫や第一現場での姦淫未遂行為自体が加わっての同女に対する反抗抑圧状態も,第二現場における千綿の姦淫のときまで途切れることなく継続していたとみるべきであるから,被告人と千綿とによる第一現場での強姦未遂と千綿ひとりによる第二現場での強姦既遂とは,包括して1個の犯罪を構成すると解せられ,この間被告人において共謀関係から離脱ないしはこれを解消したというべき事情も認められない(第一現場で千綿が同女を姦淫しようとしている間に,被告人が約70メートル離れた水源地作業所にいた船越に「車の中で女の人がいたずらされている。女が嫌がるようなら助けて下さい。」などと申し向けて,同人に様子を見に赴かせたことは認められるけれども,被告人が共謀関係から離脱ないしはこれを解消したといいうるためには,被告人が千綿にもはや共謀に基づいて犯行を継続する意思がなくなったことを告げ,千綿の犯行を止めさせたうえ,その後は当初の共謀に基づく犯行を継続することのないような状態を作出することが必要であるが,被告人が右のような行為にまで及んだものでないことは明らかである。)ので千綿による第二現場での強姦既遂についても,被告人は共犯としての罪責を免れない。論旨は理由がない。